ワカメ業界の課題

佐藤 純一 株式会社 理研食品


1 はじめに
 わかめはわが国で古来より、食用とされてきた海藻であり、現在ではのり、昆布と並んで3大海藻としての地位を築き上げている。わかめ業界はここ数年500億円/年内外の安定した市場であるが逆の見方をすれば伸張が無い市場でもある。一方で中国産をはじめとする原料の輸入が年々増加し、現在のわかめ市場は国産約2割、韓国産約3割、中国産約5割と実に輸入物が約8割を占めるに至り、供給量が需要を上回っていることから原料供給過剰型の市場と言われている。この様な状況でわかめ業界は生産(養殖)、加工、流通と各々の段階で種々の課題を抱えている。新しい21世紀を迎えるに当り、わかめ業界の課題についてまとめる。

2 ワカメの生活史と養殖技術
 ワカメの生産は国内産の97%が養殖産であり、輸入物はほぼ100%が養殖である。ワカメの生産にとって養殖技術は最も重要である。ワカメの養殖技術の基礎となるワカメの生活史と養殖技術をまとまる。
2-1 ワカメの生活史
 ワカメ(Undaria pinntifida HARVEY(SURINGER))は、褐藻植物、異型世代綱、コンブ目、コンブ科、ワカメ属に属し、大きな葉体世代(胞子体期)と微小な雌雄に分かれる世代(配偶体期)という形態が異なる異型の1年周期の世代交代を行う。その生活史は図‐1の通りであり、天然では秋に幼芽が出現し、翌年の春から初夏にかけて大型の藻体に生長する。生長したワカメからは遊走子が放出され、その後、枯死する。放出された遊走子は短時間海中を遊泳した後に岩礁等の適当な基質に付着して、後に雌雄の配偶体に生長する。精子を作る雄性配偶体は卵を作る雌性配偶体にくらべて細胞が小さくてその数も多い。成熟した配偶体にはそれぞれ精子、卵が形成され、受精が行われる。受精卵は細胞分裂を行って胞子体に発育し、胞子体は生長が著しく芽胞体と呼ばれる微小幼芽期を経て、約1ケ月で肉眼視できるサイズの幼芽に生長し、藻体に生長していく。

2-2 ワカメ葉体の性状
 生長したワカメは葉体の中央に偏円上の茎があり、その左右に羽状裂片の葉を持つ。葉の部分の茎部を特に中肋と呼ぶ。中肋は産業的には「中芯」「中茎」とも呼ばれる。また、成熟した葉体には茎の下部にひだ状の胞子葉(めかぶ)ができ、胞子葉には遊走子嚢が形成される。茎の最下部から繊維状の仮根を多数だして基物に固着する。ワカメの生長帯は茎と葉の移行部で俗に「元葉」または「のこ葉」と呼ばれ、色調が葉部よりも黄色味を帯びているため別物として扱われる。先端部は最も老化した部位であり、「末枯れ」が起こる。「末枯れ」は俗に「先枯れ」と呼ばれている。我々が通常食べているのは中肋を除去し、先端の末枯れ部と元葉を選別除去した葉の部分であり、中肋の残存状況、末枯れと元葉の選別状況にもその品質が左右される。


2-3 ワカメの品種
 ワカメは葉の切れ込みの深浅、茎状部の長さ、胞子葉の形等から下記の品種に分けられる。普通、ナルトワカメはワカメに含められると考えられ、大きくはワカメ(南方系ワカメ)とナンブワカメ(北方系ワカメ)の2型に分けられる。 (図-2 参照)
・ ワカメ(南方系ワカメ):本州太平洋沿岸中南部、日本海沿岸に多く、特に浅い所に生育するものに多い。 一般に小型で、茎が短く、葉の切れ込みが浅い。体長に比して葉片数が多く、胞子葉のヒダの数はあまり多くない。葉部と胞子葉とは連なることが多い。
・ ナンブワカメ(北方型ワカメ): 三陸沿岸及び北海道沿岸に多いが、その他の地域でも、深所、特に潮流の激しい所には生育している。 大型で茎が長く、葉の切れ込みが深い。葉片数が体長に比して少なく、胞子葉のヒダの数は著しく多い。
・ ナルトワカメ: 徳島県鳴門に産する。茎が短くて、胞子葉は栄養葉と連続し、その縁辺から葉片が出る。
 しかし、同一海域においても外洋部と内湾部、深所、浅所等環境の違いによっても形態が異なってくる。

2- 4 ワカメの養殖技術
ワカメ養殖はワカメの生活史に従って行われ、人工採苗と養成による養殖技術から成り立っている。日本の養殖ワカメの主産地である三陸地方と鳴門地方の養殖技術についてまとめる。
2-4-1 採苗
 人工的に種糸にワカメの遊走子を着生させる技術である。遊走子付けの基質(種糸)としては、天然繊維のシュロ糸(径約3mm)やクレモナ糸などの化学繊維も使用されている。宮城県、岩手県の三陸地方では天然繊維、鳴門地方では化学繊維の使用頻度が高い。通常は採苗器としてプラスチック、木や竹・鉄線等の方形枠(50〜100cm位)に種糸を巻き付けるが、ただ種糸を束ねて使用する場合もある。
 海水温が10℃を越える頃から、胞子葉は遊走子を放出するが、確実に遊走子を放出するのは水温14℃以上である。付着物をきれいに洗い落し、数時間から長くて1晩影干しした胞子葉を水温14〜20℃の海水を入れたタンクに入れるとで直ちに遊走子が放出される。遊走子の放出が検鏡によって十分確認できれば胞子葉は取り上げる。遊走子液を充分に撹拌し直ちに採苗器(種糸)を入れると、30分程度で着生するので、粘液や汚れのない別の新鮮な海水を入れた水槽中に移す。三陸地方では採苗が終わった種糸を海中に垂下して育苗管理する。鳴門地方では陸上タンクで育苗管理を行う。



2-4-2 育苗管理
海中育苗
 採苗が終了した種糸を仮殖筏に垂下する。育苗水深は漁場によって異なり、外洋漁場では深め、内湾漁場ではやや浅めとする。育苗水深は光条件等を考慮して各漁業者が決めているが、一般に、外洋漁場では水深5m程度、内湾漁場では3m程度に採苗器を吊して種苗を育成している場合が多い。海中育苗では育苗条件は垂下水深の調節で管理する。夏場の高水温期に幼芽が肉眼でも見えた場合は、芽落ちを防ぐため水深をやや深めにして浅吊りは避け、水温の下降が明瞭となったころから種苗の生長を促進させるため、何回かに分けて浅吊りを行い、本養殖間近には水深2m前後とする。
 
タンク育苗
 同じく採苗が終了した種糸を陸上のタンクで育苗・管理する。タンクは直射日光を避けて光量を調節できるようにし、種糸に光が均一に当たるように、また、簡単に種糸の上下変更反転が可能な様にする必要がある。タンク育苗では水温、採光の条件を換えて、配偶体の生長、休眠、成熟を調整する。まず、遊走子付けから2−3週間は培養水温20℃前後、1000〜3000ルックス程度の光を与える必要がある。暗くし過ぎると遊走子が球状のまま配偶体に生長しない場合があり、さらに生長が進み成熟して幼芽を形成すると越夏できないので、水温の上昇にしたがって徐々に暗くし、生長を抑制して休眠させる必要がある。着生した配偶体の発芽、生長は20℃前後で最も良く、23℃まで生長するが、それ以上の水温では生長が停止し、休眠状態となる。夏場の水温の上昇に伴い、照度を低くして成熟を抑制する。次いで、水温が下降し始め23℃以下になると配偶体は成熟して受精し、芽胞体(幼芽)を生じる。水温が23℃以下になったら、照度を次第に増して1000ルックス以上とする。このような条件になると、休眠していた配偶体は再生長を始め、20℃位で成熟し、芽胞体を生じる。 照度は急激に暗幕などを取り除くことは避け、徐々に明るくするようにする。

2-4-3 無基質配偶体による種苗生産
 ワカメの配偶体は種糸等の物(基質)に付着しなくても生育は可能である。基質を用いずに培養した配偶体を無基質配偶体またはフリー配偶体と呼ぶ。ワカメの配偶体の成熟、胞子体の発芽は20℃以下であるが、弱光下では成熟しない。よって、低温、低照度、低栄養条件で抑制培養させると、いつまでも成熟しないで配偶体のまま生存し、何年でも生存させることが可能である。また、生長した配偶体は数個の細胞に裁断しても生存し、それぞれが新個体として生長するので、配偶体の状態で栄養繁殖的に増やすことは簡単であり、この性質を利用した無基質配偶体を使った種苗生産が行われてきている。この技術は一個体起源のクローン種苗の作製が可能であり、種苗の長期保存培養、選抜、交配等の育種にも有効である。

2-4-4 仮殖(仮沖だし)
 海中育苗の場合は不要であるが、タンク育苗では海に出して、潮流による刺激や栄養塩の補給などを行いながら健全な幼芽を形成させ、生長させる。この際、付着物、付着生物の付着に注意する。

2-4-5 本養殖
 種糸上の幼芽が2〜3cm以上の大きさになったら、本養殖に入る。海中育苗では水温の順調な降下を確認しながら、種糸を徐々に引き上げ、本養殖間近には水深2m前後の深さに垂下し、種苗の生長促進を図るとともに選別を行う。この場合、種糸を一斉に浅吊りするのは避け、段階的にこれを行い、芽落ちしないことを確認しながら徐々に引き上げる。
 本養殖の方法には、巻き込み法と挟み込み法がある。巻き込み法は親縄に種糸を巻き付け、所々細糸で縛るだけなので巻き付け作業は楽であるが、本養殖密度の調整が難しいという欠点がある。挟み込み法は2〜5cmの長さに切った種糸を一定間隔で親縄に挟み込む方法で、多少手間が掛かるが、種糸を無駄なく使え、しかも本養殖密度の調整ができるという利点がある。挟み込む間隔が狭いと生長が悪く、広いと親縄が有効に使えないが、実際には30cm間隔位に挟み込んで行われている。
 本養殖場の漁場環境、主として波浪環境によって本養殖施設の様式は異なり、波浪が荒い外洋漁場の養殖施設は水平延縄式であるが、一方波浪が静穏な内湾漁場では水平いかだ方式が主流で、延縄方式もみられる。
 水平延縄式施設は主に三陸地方で行われ、親縄が1本の1条式(シングル)と2本の2条式(ダブル)があり、その長さは100mから150m位が標準である。この方式では施設の間隔が広く取られるので潮通しは良い。
 水平いかだ式施設は主として鳴門地方で行われる。鳴門地区では大体90×60m位の枠に90mの親縄が10m間隔で設置される。
 ワカメの本養殖において重要なポイントは養殖ロープ(親縄)上の着生密度調整である。着生密度の調整は一般に「間引き」といわれる。間引きの目的はワカメの生長を促すことと、長さと品質が均一なワカメを整えることであり、1月頃に後続小型群を除いてトビ群を残しこれらを大型個体として養成する方法、12月に大型個体を摘採して小型個体に揃えた上で1月頃さらに小型個体を摘採し大型個体に揃える方法など、漁場叉は個人によって使い分けられている。間引きを実施して収穫されたワカメでは、@全長が均一に揃うので収穫後の加工処理が容易である、A密殖による生長停滞が防止される、B葉体への付着物を防げる。Cワカメ1本当たりの品質が高まるという利点がある。

2- 4-6 収穫
 原藻の生長を見ながら収穫作業を行うが、近年、病虫害の被害が各地で見られ、病虫害を恐れて早期に収穫すると収量が出ず、収穫を遅らせると病虫害のために品質が落ちるという問題があり、収穫のタイミングを上手に見極めることが肝要である。

3 海外でのわかめ養殖の現状
 わが国で消費されるわかめの8割が韓国と中国からの輸入であり、すべて養殖で生産されたものである(図3)。これらの地域での養殖生産(量、品質)が日本のわかめ市場に及ぼす影響は甚だ大きい。以下は韓国、中国でのわかめ養殖の現状である。

3-1 韓国
 韓国産のわかめは1970年から日本への輸入が開始された。最初は天然産の原藻が素干し加工されたが、養殖技術の導入と発展、湯通し塩蔵わかめの加工技術の日本からの指導等で急速に輸入量は伸び、1977年には湯通し塩蔵わかめで24,361トンに達した。韓国わかめの日本への輸入による日本市場の混乱、日本産わかめの圧迫が問題となり、日本側・全漁連、韓国側・社団法人・韓国海藻塩辛品輸出協会が両国の窓口となり、1978年から輸入自主協定数量19,000トン(湯通し塩蔵わかめ)でスタートした。また、翌1979年からはチェックプライス制度が導入された。その後1989年には同じく史上最高の24,978トンが輸入された。この年には乾燥わかめが1,800トンも輸入されており、合わせてボイル塩蔵品換算で3万トンを突破する勢いであった。
 しかし、その後、湯通し塩蔵わかめから乾燥わかめでの輸入への切り替え、中国産の輸入開始などの影響で徐々に数量は減少し、1995年には自主協定数量が撤廃され、チェックプライスも1998年に撤廃された。
 韓国でのわかめの養殖は南西部の全羅南道(Chollra-Namdo)の莞島(Wando)郡、珍島(Jindo)郡、長興(Chnaghung)郡、高興(kohung)郡及び南東部の慶尚南道(Kyongsang-Namdo)の機張(Kijyang)郡で行われてきたが、全羅南道では病虫害の発生のために外洋系の漁場から内湾の漁場に移ってきており、元々の主産地であった莞島郡の島々から産地は長興、高興へ移動している。また、機張郡での養殖は年々衰退し、また、珍島郡でも輸出用の養殖・加工はほとんど行われていない。
 養殖方法はまず、5月末から6月初旬に採苗を行う。母藻は養殖産がそのまま使用されることが多い様である。採苗にはクレモナ糸を使用し、採苗後はタンク育苗を行う。採苗は生産者が直接行う場合もあるがたいていは種苗業者が別にいて、種苗のみを生産・販売している。10月に仮沖出し(タンク育苗から海中育苗への移行)を行った後、本養殖を行う。親縄への種糸の定着は以前は「巻き込み法」で行われていたが、5−6年前から「挟み込み法」に代わってきた。養殖の施設は1ha(100×100m)を基準とされており、この面積に親縄100mを20本入れることを各地方の水産技術管理所(日本でいうと水産試験場)から指導しているが、実際には50本つまり2m間隔で非常に潮通が悪い状態で養殖されてきた。また、挟み込みの間隔も当初は20−30cmであった。つまり、施設面(養殖ロープの間隔)と養殖密度(親縄1m当たりの本数)の両面で密殖となっていた。 また、わかめの養殖施設の下にヒジキの増殖ロープを張る漁場もあった。この様な状況では良質のわかめが育つことはまずなく、生育不良でひ弱で中肋が曲がり、色調も薄い低品質のわかめしか生産できないことは明白であり、この様な密殖漁場では病虫害も発生しやすい。また、沖出しの時期も以前は一斉に行ったため、採取適期に採取できるのはごく一部だけであった。特に韓国の生産者(漁民)はわかめの質よりも量を大事にするので我々から見た採取適期よりも遅くまで養殖ロープに残しておいて結局は老化させて商品価値を落としてしまっている。しかし、2年ほど前から、中国わかめとの競争で韓国わかめの生き残りのためには品質向上しかないとの声が大きくなり、親縄を1haに30本程度つまり約3m間隔とし、挟み込みも40〜50cm間隔とする漁場も出てきた。沖出しも採取時期を考慮して、10日毎に3回程度に分けて行うようになってきていることは好ましい傾向である。それでも先に述べた三陸地区の養殖施設と比較するとまだまだ、施設面での密殖は改善されていない。
 いわゆる「新芽わかめ」として茎付きで大都市向けに生出荷されるものは12月の中旬頃から収穫されるが対日輸出向けの湯通し塩蔵加工向けの収穫は2−3月に行われる。韓国では元々、養殖ロープ上の大きな藻体をまず手で刈って収穫し、その後、養殖ロープに残ったものをさらに生長させて収穫するという2度刈りあるいは3度刈りが行われていた。最初に収穫される原藻が「一番草」その後が「二番草」「三番草」と呼ばれた。しかし、年々深刻となる人手不足で「機械採取」による一斉刈りが5年ほど前から行われるようになり、現在ではごく一部を除いて「機械採取」となっている。これは2−3隻の小船を準備し、先頭の船にウインチを設備し、養殖ロープをウインチで巻き上げながら、二番目あるいは3番目の船の上でロープが移動する際にカマでわかめを刈って行く方法で養殖ロープ上のわかめを大小かまわず、根こそぎ刈っていく(図4)。つまり、従来の方法ではある程度大きさのそろった葉体を収穫し、加工できたが「機械採取」では大小まじりの原藻となるため、湯通し加工を行う際に大きめの原藻に湯通し条件を合わせれば小さ目の原藻はボイル過多となり、小さい原藻に合わせれば大き目の原藻はボイル不足となってしまう。また、韓国の漁民は原藻の選別(末枯れと元茎の除去)を行わないため、後工程での選別が大変になり、反って原価を圧迫することになっている。
 韓国で機械採取による一斉刈りは人手不足の解消という点では画期的な刈り取りの工夫である。ただし、この方法を有効にするためには大きさの均一な原藻を養殖することがまず、第一の課題であろう。そのためには養殖設備の改良、具体的には筏式養殖施設の親縄の間隔を従来の2−3mから5m以上に広く取り、尚且つ適性密度で養殖することが第一である。また、韓国のわかめの生産システムは生産者(加工業者)‐加工業者が別個であり、生産者、加工業者はそれぞれが自分の立場のみを考えてきた。また、特に品質面についてはここ数年何の努力もせずに来た。しかし、中国産の日本への輸入増大による韓国産への圧迫が年々激しくなるなかで「韓国わかめの生き残る道は品質向上しかない」という気運がでてきており、徐々にではあるが昨年あたりから加工業者が生産者に種苗を提供し、養殖方法の指導を行うケースも出できている。また、莞島、珍島の水産技術管理所(旧名称漁村指導所)では優良種苗開発の研究も行われている。しかし、予算の削減、担当者の移動その他で継続されていないのが実状である。韓国も海藻関連の基礎研究者は減る一方であり、特に公的研究機関では組織の合理化縮小の影響が甚だしい。また、近年では現在、韓国での産業規模の養殖種であるノリ、わかめ、ヒジキ、コンブ等の次の養殖海藻としてスジメ、ホンダワラ、ハバノリなどの養殖研究に重点が移ってきている。

3-2 中国
 中国では1980年代初めから産業的規模のわかめ養殖・加工が始まった。81年には遼寧省の大連で天然産の原藻を使用して湯通し塩蔵わかめの製造テストが行われた。同年に養殖がテスト的に始まり、翌82年に採取された原藻は全て湯通し塩蔵わかめに加工され513トンが日本へ輸出された。その後、日本への輸入数量も増加し、87年には湯通し塩蔵わかめで5,537トンと5,000トンを超え、91年には11,669トンと10,000トンの大台に乗った。その後も輸入数量は増えつづけ、99年には20,000トンに達し、カットわかめの4,648トンと合わせて日本の総わかめ供給量の約半分を占めるほどになった。当初、中国産わかめは「ドブ臭い、とろける」等の評価で好んで使われなかったが、品質も徐々に改善されたことと日本市場が安価品志向に動いたため今日の様な状況となったと言える。
 現在、中国での主産地は大連市を中心とした地域であるが同地区は観光地でもあることから大連市の外側(特に東側)へ養殖場は広がっている。また、山東省でも行われているが山東省は海域によって黄河の流入で海の濁りがあり、なかなか品質向上と増産が図られていない。
 中国での養殖も基本的には日本、韓国と同じ方法であるが種苗の作り方と養殖施設の作り方が異なっている。まず、種苗生産は「半人工育苗」「全人工育苗」との二通りの方法があり、現地では其々「半人工」「全人工」と呼ばれている。前者は親縄に直接採苗し、これを海中で育苗していくという非常に大胆なやり方である。後者は日本や韓国と同じく、めかぶから種糸(クレモナ糸)に採苗し、室内で育苗していく方法であり、大連水産学院を中心に技術開発が進んだ。いずれも母藻は養殖ロープ上の藻体が使用されるが最近では日本からの種の移入が頻繁に行われている様である。「半人工」は親縄のみを準備すれば良いこと、陸上での育苗施設が要らないという長所があるが、種苗の密度調整が難しいこと、原藻の採取可能時期は早く始まり、早く終わる等の欠点がある。また、太くて重い親縄を取り扱うことは大変煩わしく、採苗用のめかぶが大量に必要である(図5)。「全人工」は毎年の種糸の準備、陸上育苗施設が必要となるが、原藻採取可能時期が延びるために3月まで原藻採取が可能である。また、「半人工」に用いられる親縄は数シーズン再利用され、初夏のわかめ養殖場近くの岸壁や広場は海から引き上げられた親縄でいっぱいになる。現在、大連地区では設備、コストの面から「半人工」が8割、「全人工」が2割程度でまだ、圧倒的に「半人工育苗」の割合が高い。また、同じ、養殖場で「半人工」を主とし、予備として「全人工」を用いているところもある。「半人工」は各養殖場毎に採苗、海中育苗が行われているが、「全人工」は設備の面でできるところが限られるので、「全人工」の種糸を販売する目的で種苗生産を行っているところもある。水温の上昇の遅い大連では6月下旬から7月初めに採苗が行われる。その後、「半人工」では海中に垂下され育苗に入る。「全人工」では室内育苗に移る。「半人工」は9月中旬に仮沖出し、10月中旬から下旬に沖出し(本養成)を行う。「全人工」の場合は少し遅く、9月下旬に仮沖出し、10月下旬から11月上旬の沖出しとなる。通常、「半人工」の沖出しの終りと「全人工」の沖出しの初めが大体同じ時期となる。
 「半人工」全人工」いずれの場合も「横繩式」と呼ばれる中国独特の養殖施設で本養成が行われる。これは鳴門や韓国で行われている水平いかだ式に近いが60〜100mの幹ロープを8m間隔で海に設置し、これに0.8〜2.0m間隔で親縄を張っていく。「全人工」の場合はこの親縄に種糸を約30cm間隔で挟み込むが、「半人工」では親縄に直接採苗したものがそのまま用いられる(図6)。この施設方式では横繩(親縄)がたるみやすく、親縄の真中が水中に没するために養殖水深が一定で無く、生長にばらつきがでる。また、施設が隙間なく海に並ぶため、異常な密殖状態となり、非常に潮通が悪い状態となる。幸いに中国ではコストが安く、豊富な労働力があるため、人手による「間引き採取(密殖状況で生育するわかめを大きいものから順に刈っていく)」が行われていることが救いである。原藻の採取は養殖場によるがまず、「半人工」種苗を用いた所で旧正月前(1月)に1回目の刈り取りが行われる。これは基本的には1月から2月初めであるが12月末から刈り取りをはじめる所もある。その後、2月に2回目、3月に3回目回の採取・加工が行われる。「全人工」種苗の場合は遅れて第一回目の刈り取りは旧正月明けとなる。
 その後、2回目、3回目の採取加工が行われ、場合によっては4月に入ってからも刈り取りが行われる。この様な採取方法を行えば量の面ではメリットがあるが品質の劣る原藻しか生産されないこととなる。特に大連では冬季の最低水温が1℃代まで下降するため(図-7参照)、わかめに対しては過酷な環境で生育することになり、一般に「中国わかめはコシが無い。」と言われていることの一因であると思われる。また、色調の劣化(くすみ)、異常葉(毛そう、病虫害、付着生物、汚れ)等のわかめの重要な品質ポイントに関して、採取時期が遅れるほど酷くなるため、密殖の防止、早期の採取・加工が望まれ、特に横繩式を通常の水平いかだ式に移行するように指導しているが、中国でも韓国と同様に「質より量」という発想が主であり、なかなか難しいのが現状である。




4 わかめ業界の課題
4-1 国内生産の問題
 我国のわかめの生産量は1991年には104,000トンであったが、ここ数年は96年;82,000トン、97年;75,000トン、98年;73,000トン、99年;77,000トン、2000年;66,800トン(食料タイムス社集計)と7万トン内外を推移している。全体の供給数量に占める割合も93年までは30%台を保っていたが、その後、輸入数量が年々増える中でますます総供給量に占める割合は減少し、現在は約2割となっている。(表1参照) 国内のわかめ生産量が増えない理由は生産者数の減少、生産者の高齢化、後継者不足等がある。さらに生産システムそのものが日本、韓国、中国で根本的に違うことも考えなければならない。「漁業・養殖業生産統計年報」の平成10年(1998年)のデータによれば全国の経営体数は7,657であり、一経営体当りの生産量は10トン弱と各生産者が家内工業的規模での生産が行われていることがわかる。特に三陸地区でこの傾向が大きい。これに対して韓国では同じく生産者(漁民)が個人として養殖をしているが、規模はもっと大きく、正確な統計的な資料が無いが、一漁家当りの養殖規模は小規模なところで原藻で40〜50トン、大規模なところでは300トンを超えると推定される。。中国では生産システムが全く異なり、生産者は存在せずに加工工場が直接養殖を行っているので一経営体当りの生産規模はさらに大きい。
 これ以上、経営体数が増えることが望めないのであれば一漁家当りの生産量を増やす努力を行う工夫が必要であろう。淡路、鳴門地区では協業化により大規模な養殖を行っているところもあるがこれもひとつの方向であろう。せめてわかめ総供給量の1/3の10万トン程度は生産すべきであるとの声もある。三陸等の産地でも増産について種々論議されている。いずれにせよ、安定生産による数量と価格の安定が望まれる。

4-2 輸入品の品質向上
 輸入品と一口に言っても韓国と中国からの輸入には大きな違いがある。韓国での現状を見ると韓国ではわかめをたくさん食べるので中でも品質の良い部類のものは日本へ輸出し、その下のグレードは韓国内で消費するという構造がすでに出来上がっている。また、日本側も韓国わかめに対してコスト面からもある程度の品質を要求しているのであまり品質の悪いものは日本へは入ってこない様になった。
 ところが中国ではわかめをほとんど食べないため、ほとんどすべてが日本に輸出される。特に湯通し塩蔵わかめで比較的良質のものが輸出された後にカットわかめとして品質の劣るものが輸出され、ややもすれば湯通し塩蔵わかめの選別で除去した選別雑までカットわかめに化けて輸出されている。逆に言えばその様なものでも単に価格が安いからということで買う側もいるということである。実際に市場に出回っている商品を見ると非常に粗悪なものが見受けられる。この様な粗悪なわかめを消費者が食べてわかめに対する印象を悪くしてしまうことは業界全体としても大きなマイナスとなることは明白である。よって粗悪品は絶対に市場から除去する必要がある。そのためには中国の国内消費を喚起することも重要である。
 いずれ、韓国でも中国でも品質向上のためには最も基礎となる原藻の品質向上をまず考えなければならない。そのためには養殖の基礎をもう一度振り返り、早急に改善すべきである。

4-3 優良品種の開発と無基質種苗での養殖技術の開発
 わかめと同じくノリは産業的に養殖生産されている海藻であるが、現在、ノリの品種、系統は1,000株にも達しているという。また、中国ではアルギン酸原藻としてのコンブの「品種」がすでに開発されている。ところがわかめは生産者が経験的に種苗を選んでいるもののまだまだ、「品種」の開発は行われていない。40年近い産業的な養殖の歴史を持ちながら、残念な現状である。 特に今後の国内生産の安定、存続を考えると高品質、高収穫性、対病性等の形質を持った優良品種の開発は不可欠であると思われる(図7)。
 現在、母藻として天然または養殖ロープ上の原藻を用い、その胞子葉(めかぶ)から採苗しているが、いくら経験的に種苗(母藻)の選択を行っても毎年、一定の原藻を安定して生産することはできない。また、「めかぶから採苗→養殖(F1)→F1のめかぶから採苗→養殖(F2)→F2のめかぶから採苗→養殖(F3)→F3のめかぶから採苗→……」と継代養殖を行っている場合は当然代を重ねる毎に原藻品質の低下が起こる。よって、良質のわかめを安定して作ろうとするのであればまずは一定の種苗を使って養殖を行う必要があり、種苗の保存、維持にも有効な無基質配偶体の培養技術は必須となる。無基質種苗を使った養殖はまだ一部の地域でしか行われておらず、今後、産業的な無基質配偶体の大量培養設備の充実が望まれる。

4‐4 消費の拡大
 わかめの市場規模は1995年頃まではほぼ順調に伸び、500億円を越す勢いであった。この市場伸長の背景にはカットわかめの出現が大きく貢献した。カットわかめの出現により今まで「生わかめ(塩わかめ)」ではできなかったインスタント食品への使用という新しい用途が生まれ、わかめスープ、わかめラーメン等カットわかめを使った二次加工品が生まれた。また、カットわかめの簡便性、保存性の良さが消費者に受け入れられ、カットわかめの市場への供給量は着実に増えて、市場も伸びた(図8)。しかし、その後、市場はやや縮小ぎみで低迷状態が続いている。これはカットわかめ以降の新製品開発、用途開発が十分に行われなかったことで新たな消費活動が生まれず、消費量が増えていないことと安価な中国産カットわかめの大量輸入で市場単価が下がってきたことの影響が大きい。
 現状ではわかめ市場の今後の発展は厳しい状況である。 「家計統計年報」によると1世帯当りのわかめの年間平均購入量は昭和61年(1986年)が1,977gであったのに対して、平成9年(1997年)では1,311gと実に66%まで落ちている。ただし、このデータは生も乾燥も含めての数字であるので生わかめ(塩わかめ)からカットわかめへの移行が起こっていることもを考慮しなければならないがそれにしても家庭での消費量は確実に減っていることは事実である。よって、もっと家庭での消費の拡大を図る必要がある。そのためには現在、味噌汁や酢のものといった和食中心であるわかめのメニューをもっと拡大して行く必要がある。
 また、現在のわかめの一次生産品はほとんどが湯通し塩蔵わかめであり、カットわかめも湯通し塩蔵塩蔵わかめを原料としている。湯通し塩蔵わかめが誕生した後、新しい加工品に関するトライアルは行われているが残念ながら、未だ世の中が認めてくれるものは出ていない。わかめの市場拡大は新たな切り口の新製品の開発無くしてはありえないと思われる。これらのことは我々メーカーに与えられた大きな課題であろう。

4- 5 もっと世界へ
 わかめは我が国と韓国でしか本格的に消費されていないのが実情である。しかし、フランス、ニュージーランド、オーストラリア、アルゼンチンではすでにわかめの生育が確認されており、また、最近ではイタリアにもわかめが生育しているとの情報もある。フランスでは小規模ながら養殖も行われている。
 例えば、何年か前にニュージーランドの海藻研究者が日本と韓国に来て、日本へのわかめ輸出の可能性を熱心に調べていったことがあるが、はるか赤道を越えて運ぶコストやニュージーランドの人件費では難しいとの結論であった。ニュージーランドの研究機関に最近の状況を問い合わせたところ、「わかめの養殖の研究も行い、成功した。しかし、現在、天然のわかめがあまりに繁茂し、在来種の生態系に影響を与えるとして、わかめは害藻として扱われてはじめた。水産省が「害藻としてのわかめ対策」を展開中であり、わかめの養殖、収穫は禁止されている。」とのことであり、なんとも残念なことである。
 我々はわかめの消費拡大として「わかめをもっと世界へ」ということを常に考えて、海外へも日本のわかめ製品を紹介してきたが中々良い結果は得られていない。これからは日本の製品或いは食べ方をそのまま紹介するのではなく、わかめの機能性を強調しながら、現地にあった形での製品、メニューを開発すべきではないか? 

5 終りに
 ここ10年ほどを振り返ってみるとわかめ業界の課題、問題等を扱ったシンポジューム、フォーラム、記事が数多く見られる。今回、ここで述べたことは重複することもあると思われるがそれだけわかめ業界は多くの課題を抱えながら歩んできていると言える。ただ、10年を振り返ってみて、論議されていることはずっと同じであると思われる。ここで新たな21世紀を迎えるに当り、わかめ業界がさらなる発展を成し得るためには各研究機関、団体、企業それぞれが自分の立場と役割を認識して、「今何をなるべきか? 何からやるべきか?」を明確にして取り組んでいくことが重要であろう。今回のシンポジュームがその契機となれば幸いである。